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東京高等裁判所 平成元年(ネ)4385号 判決

控訴人 長谷川実

控訴人 長谷川みつ

右両名訴訟代理人弁護士 浜名儀一

同 白石哲也

被控訴人 宗教法人證誠寺

右代表者代表役員 隆克朗

右訴訟代理人弁護士 石川泰三

同 今西一男

同 滝田裕

主文

原判決を取り消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

一  控訴代理人は、主文同旨の判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

二  当事者双方の主張は、次に付加、訂正するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決三枚目表六行目の「賃料」を「割合による賃料の支払を」と、一二行目の「月極駐車場の」を「『月極駐車場』と記載した」とそれぞれ改め、九行目の「1ないし3」の、同裏一行目の「請求原因5」の各次に「の事実」をそれぞれ加える。

2  同三枚目裏三行目の「(その以前は富美)」を、「の外これ」を、四行目の「被告長谷川みつは」をそれぞれ削り、三行目の「宅地の一部」の次に「(別紙図面(B)表示の6の土地、以下『本件隣地』という。)」を加え、六行目の「異議」を「異議を」と、七行目の「計画し、」から八行目の末尾までを「計画したが、これにも被控訴人は異議を述べないものと予想され、その上、」と、一二行目から末行にかけての「月極駐車場の」を「『月極駐車場』と記載した」とそれぞれ改める。

3  同四枚目表六行目の「富美」を「控訴人長谷川みつ」と、「本件土地の外これに隣接する宅地の一部」を「本件隣地」と、「していた」を「している」とそれぞれ改め、一二行目の「その余」の次に「の事実」を加える。

4  同九枚目表「(A)及び(B)の」を「(A)及び(B)表示のそれぞれ」と改める。

三  《証拠関係省略》

理由

一  請求原因について検討する。

1  請求原因1ないし3の事実は当事者間に争いがない。

2  《証拠省略》を総合すると、控訴人らは、被控訴人に無断で業者に依頼して、昭和六一年八月下旬ころ、富美から相続した本件土地上の建物を取り壊し、整地して本件土地全体をアスファルト敷に舗装した上、昭和六二年二月ころまでに隣地上の建物の壁面に「月極駐車場 申込先(二二)二二七〇(控訴人ら方の電話番号)」と記載した看板を掲示したこと(以上の事実は当事者間に争いがない。)、被控訴人代表者が、昭和六二年二月から同年四月にかけて、同年一〇月中及び昭和六三年一一月から一二月にかけての三回にわたり本件土地の使用状況を調査したところによると、毎日四台ないし九台の第三者所有の小型自動車が一定期間ほぼ同位置に駐車しており、被控訴人代表者は、控訴人らが有料で駐車されていることを伝聞で聞いていること、控訴人らの右のような土地使用状況はその後も変わりのないことが認められる。

右事実によれば、控訴人らは本件土地を有料の屋外駐車場として使用しているものと推認することができ(る。)《証拠判断省略》 そうすると、控訴人らの右行為は、本件土地の無断転貸に当たり、かつ本件賃貸借契約で定められた用法に違反するものといえる。

二  ところで、控訴人らは右約定違背は信頼関係を破壊しないと主張(抗弁)するので、検討する。

1  前示一2の事実に、《証拠省略》を総合すると、控訴人らは、本件土地上の建物を従前貸家として使用していたが、一年以上にわたり借手がつかず空き家のままであって、庭には雑草がはびこり、浮浪者が入り込んだりして火災の発生する危険もあったので、建物がかなり老朽化していることも考慮して、とりあえず本件土地を駐車場として使用する目的で、前示のとおり建物の取壊し、整地及びアスファルト舗装をしたことが認められ(る。)《証拠判断省略》

2  前示一2の事実に、《証拠省略》を総合すると、被控訴人代表者は右建物取壊し後まもなく右事実を知り、本件賃貸借契約に関する処理一切を被控訴代理人石川泰三弁護士に委任し、同弁護士は昭和六一年九月八日ころ控訴人長谷川実に対し、同控訴人が右建物を被控訴人に無断で取り壊したことについて抗議するとともに、同控訴人の存念を聞きたい旨の書面を送付し、これに対し同控訴人は同弁護士に対し、右建物の取壊しは内部に浮浪者が入り込んだ形跡があり、付近に迷惑をかけることを恐れ、建物の老朽面も考慮してしたのであり、又アスファルト舗装は雑草の繁りが甚だしいためその対策としてしたのである旨の釈明の書面を送付し、以後両者間で交渉が行われ、同弁護士は本件土地の明渡を得ることを基本として話合いにより解決しようと試みたが、本件土地上に建物を新築することについての承諾を要請する同控訴人との間で折り合いがつかず、本訴提起に至ったことが認められる。

3  《証拠省略》を総合すると、前示舗装はアスファルトによる簡易なもので建物敷地への復元は容易であり、駐車場といっても他になんらの設備ないし施設を伴うものでもなく、判明している駐車料金は月額五〇〇〇円程度であるから、控訴人らが本件土地を駐車場として利用することによって得られる収益は、本件土地賃料と大差のないこと、控訴人長谷川実は昭和六三年中に右駐車場の看板を撤去したことが認められる。

4  以上の事実によれば、控訴人らが右建物を取り壊したのはそれなりの合理的理由に基づいており、右有料駐車場としての利用は、利用者の利用関係の解消は困難ではなく、暫定的かつ小規模なものであってその原状への復元も容易であり、更に、右建物取り壊し後の被控訴人側の対応を考慮すると、控訴人らが裁判所に改築の許可を申し立てるなどして速やかに本来の用法に復するよう努めなかった点を一概に強く非難することはできない。そうすると、《証拠省略》により認められる、富美ないし控訴人らが被控訴人から賃借している本件隣地及び他の土地について、以前その地上建物の建替え又は修理について紛争があった事実を斟酌しても、なお控訴人らと被控訴人との間の本件賃貸借契約関係は、控訴人らの前示行為によっては未だ解除を相当とするほど信頼関係が破壊されたものとはいえないというべきである。

よって、控訴人らの抗弁は理由がある。

三  以上によれば、被控訴人の本訴請求は理由がないから、これを認容した原判決を取り消して右請求を棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 丹野達 裁判官 加茂紀久男 河合治夫)

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